うちの爬虫類の話

うちの爬虫類たちの話をします。

リクガメの温度管理について考える

12月も下旬に入り、冷え込む日が増えました。朝晩は吐く息がすっかり白くなっています。

先日は湿度管理の話をしましたが、冬の爬虫類飼育において同様に重要になるのは温度管理です。冬眠をさせないのであれば冷えすぎないように、逆に温めすぎてもしまわないように、ケージ内の温度を調節してあげなければいけません。

そこで今日は、リクガメの温度管理について考えてみたいと思います。

PBTとPOTZ

まず紹介するのは、爬虫類の温度管理に関連する概念であるPBTとPOTZです。 PBT(preferred body temperature)とは、その種の生理機能がもっともよくはたらく体温のこと(1)、 POTZ(preferred optimal temperature zone)とは、PBTを維持するのに適した気温あるいは水温の範囲のことを指します(1)。爬虫類の温度管理を行う際は、このPOTZの範囲を目安にして温度設定を行うことになります。

保温の種類

続いて、保温方法の種類について触れておきます。

リクガメを含む爬虫類の保温方法は、大きく全体保温と局所保温に分けられます。

全体保温

ケージ全体が、その種に適した一定の温度の範囲になるようにするための保温です。POTZがわかっている種では、日中はその範囲内になるように設定します。

夜間は、日中よりも温度を下げて、リクガメが体を休められるようにすることが推奨されています。目安として、MSDのveterinary manualには、POTZの範囲を5℃低温にずらした温度帯まで下げると記載されています(2)。

この保温は、ケージ全体に熱を伝える必要があるため、後述する熱の伝わり方のうち、対流を活用することになります。

局所保温

局所保温とは、ケージの一部を、全体保温とは別に特別な目的で暖める保温です。これは、さらにふたつに分けられます。

ひとつはホットスポットで、夜間に体温の下がったリクガメが活動を始めるとき、速やかに体温を上げられるように、日中、ケージ内の一部をより高い温度に温める保温です。温度設定の目安として、MSDのveterinary manualには、POTZ上限よりも5℃高い値にすると記載されています(2)。

ホットスポットはケージの片側に寄せて設け、ホットスポットのある側からない側へ温度勾配をつけると、カメが好きな温度の場所を選ぶことができるようになります。

もうひとつは、緊急時の避難場所です。なんらかの要因で全体保温が不十分になったときに、リクガメが寒さから避難できるように、局所的に保温しておく場所があると事故が減ります。ここはホットスポットのように高温である必要はなく、POTZの最低温度程度が保てていれば十分です。

これらの局所保温は狭い場所を速やかに温めるため、後述する熱の伝わり方のうち、伝導や放射を活用することになります。

熱の伝わり方

次に、熱の伝わり方の種類について紹介します。温度管理を考える上では、さまざまな保温器具が、どのような特性を持っているのか理解しておくことが重要です。そのためには、この知識が役に立つと思います。

熱の伝わり方には、伝導、対流、放射の3つがあります(3)。

伝導

伝導とは、物体の内部を高温部から低温部へ熱が伝わっていくことです。高温の物体と低温の物体が接触している場合に、前者から後者へ熱が伝わることも伝導と呼びます。ホッカイロを手に持ったときに、ホッカイロから手のひらへ温かさが伝わってくるのは、伝導による熱の移動が起きているからです。

対流

気体や液体は、温められると膨張して軽くなり、上の方へ移動します。代わりに、周囲の温められていない気体や液体は下の方へ移動します。この移動のことを対流といいます。温められた気体や液体は、対流によって移動することで、別の場所に熱を伝えることができます。エアコンによって部屋全体が暖まるのは、エアコンから吐き出された暖かい空気が対流することで熱が伝えられているからです。

放射

絶対零度ではないすべての物体は、赤外線を放射しています。放射される赤外線量は物体の温度に比例し、放射された赤外線は、別の物体に当たると、その物体を加熱します。この赤外線の作用によって熱が伝わることを放射といいます。石油ストーブの近くに行くと、直接触れなくても温もりを感じるのは、ストーブから放射された赤外線が熱を伝えているからです。

 

これらの熱の伝わり方は、どれかひとつだけが起きるということはあまりなく、たいてい、2つ以上の伝わり方が同時に起こります。石油ストーブに触ると火傷をするのは熱の伝導が起きているからですし、そばによると暖かいのは放射が起きているからです。ストーブをつけていると、やがて対流によって部屋全体が暖まります。爬虫類用の保温器具も同様に、2つ以上の熱の伝わり方が同時に起きており、用途の違いは、そのうちどれを主軸に据えているのかの違いによっています。逆に言えば、主軸とされていない熱の伝わり方を活用することもできうるということです。

一般的な保温器具の特徴

さて、熱の伝わり方を踏まえた上で、リクガメ飼育に用いられることの多い保温器具がどんな熱の伝わり方を駆使しているのか、特徴や用途について見ていきましょう。

エアコン

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室内機に内蔵した熱交換器に高温高圧の流体を流すことによって、熱交換器を通り抜ける空気を加熱し、熱風として送り出すことで対流を起こし、部屋全体を暖める装置です。対流により空間を暖める全体保温器具の筆頭格といえます。エアコンが力を発揮するのはどちらかと言えば冬よりも夏ですが、冬場もとくに、複数ケージを保温しなければならないときなどは活用できます。

使用する際は、ビバリウムガイド87号の小特集(4)にあるように、POTZの下限、あるいは夜間温度が維持できる程度の設定にしておくと電気代や過度な乾燥を抑えられるでしょう。とはいえ、暖める空気の量が多いので、乾燥対策は必要となります。

上部ヒーター

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上部ヒーターは、レップジャパンの暖突やエキゾテラのヒーティングトップといった、ケージの上部に設置する保温器具です。

販売元による説明では、暖突は遠赤外線の放射によって温めると書かれています(5)。ヒーティングトップには原理についての説明はなく、やさしく空気を温めるとだけ書かれています(6)。素直に読めば、暖突はサンラメラのように空気をそれほどあたためずに赤外線の当たった対象だけをあたためる器具( 赤外線は空気を透過するので(7)空気を温めません)、ヒーティングトップはエアコンのような熱伝導によって空気を温めて対流を起こす器具というように読めます。しかし、実際には暖突のほうが空気が乾燥する(=空気を温めている)という声が多く、ヒーティングトップの仕様説明では、空気より直下の物体の温度が高くなることがわかることから、いずれも保温方法は同じで、実は暖突のほうが伝導による空気の加温効果が大きくなっているものと考えられます。ZOO TIMEの検証では、暖突に比べてヒーティングトップのほうが、遠い距離まで温めることができたそうですから(8)、むしろヒーティングトップのほうが、赤外線ヒーターとしての効果が高いのかもしれません。

いずれにせよ、双方空気も温めることになるので、放射による局所保温だけでなく、温められた空気の対流による全体保温効果が期待できます。

白熱電球

電気抵抗の大きなタングステンフィラメントに電流を流すことで発熱させ、発光させる白熱電球は、可視光とともに赤外線も放射します(9)。この電球自体の発熱と、放射される赤外線が、古くから爬虫類の保温に用いられてきました。

通常の白熱電球は四方八方に光を放つため、放射を利用した保温器具としては効率が悪く、電球自体の発熱を利用し、空気を温める全体保温の用途で用いられます。電球のガラスに色をつけ、赤や青など、爬虫類があまり気にしないとされる光の色にして、夜間も点灯できるようにされた製品が多いです。

白熱電球の内部に反射鏡を取り付け、光が一方向に集中するように作られたレフ電球は、放射熱による熱伝達効率がよいため、ホットスポットに用いられます。日中用いられることが多いですが、赤や青の色をつけ、夜も点灯できるようにした製品もあります。

同じく保温に用いられるハロゲンランプは、電球内にハロゲンを封入することでタングステンフィラメントの損耗を防ぎ、長寿命化したものです(10)。

HIDランプ

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バラストレス水銀灯(エキゾテラのソーラーグローUVやビバリアのハイパーサンなど)やメタルハライドランプ(ゼンスイのソーラーラプターHID、ソラリウムなど)などの総称です。発光原理は異なりますが、やはり光と熱を発し、保温器具としては基本的にレフ電球と同じ用途で用いられます。

パネルヒーター

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ケージの下に敷いて用いられることが多い保温器具で、代表的なものにはレップジャパンのピタリ適温プラスやビバリアのマルチパネルヒーターなどがあります。伝導によって触れているケージの底面、床材、生体へと熱を伝える局所保温に用いられます。リクガメは背中から温めたほうが効率的に体温を上げられるため、ホットスポットとして使われることはあまりなく、夜間の避難場所として、またはレフ電球等の補助として用いられます。

ただ、ほかの保温器具と同様、伝導によって多少空気も暖まるため、小さなケージであればケージに対して大きなサイズを側面に貼り付け、周囲を断熱することで全体保温に用いることもできます(11)。

 

このあたりが、リクガメの保温に使われる代表的な器具ではないかと思います。

全体保温で気をつけること

ひと通り、代表的な保温器具について解説したところで、実践例を紹介したいと思いますが、その前に、とくに全体保温において気をつけることについて触れておきます。

温度管理の考え方の項で、全体保温を行うには対流を利用するしかないと書きました。空気は熱伝導率が悪く、赤外線も透過してしまうため、熱源から離れた空気を暖めるには空気自身に熱を運んでもらうしかないからです。

対流を利用するしかないということは、通気性がよい=空気がケージの外まで簡単に出ていってしまうケージでは、ケージ内だけを暖めることは難しいということになります。ケージを置いている部屋全体で対流が起きてしまい、暖まった空気がケージの外へ出ていってしまうので、部屋全体を暖めるくらいの熱量がないと、ケージ内も暖まりません。しかし、部屋全体を暖められるような強力な熱源をケージ内に置けば、その近くにいる生体はあっというまに熱死してしまいます。

では、どうすればよいか。方法は2つあります。

ひとつは、ケージ外に強力な熱源(たいていはエアコン)を置いて部屋ごと暖める方法です。近年のエアコンは省エネなので、室温を20℃程度に暖めるだけならそれほど電気代はかかりません。室温が20℃あれば、あとはケージ内の局所保温でなんとかなります。

もうひとつは、空気が対流する範囲を制限することです。ケージ内の保温器具で暖まった空気が外に出ていかないように、蓋を木やガラスにする、ケージを布やビニールで覆うなどして、あえて通気を悪くし、空気がケージ内に止まるようにするのです。さらに、ケージ内の熱がケージの壁を伝って外へ逃げないように、断熱材を貼り付けることで熱を閉じ込めることで、ケージ内だけを効率的に暖めることができます。

小さなケージであれば、ケージごとより大きなケージや温室などに入れて、その大きなケージごと保温をすると、対流の制限・断熱の両方の効果が得られ、しっかり保温することができるでしょう。

実践例

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では、最後に我が家の環境を実践例として紹介したいと思います。

全体保温

我が家では猫も飼育しているため、全体保温としてエアコンが24時間稼働しています。暖房モードだと昼間暑くなり過ぎてしまうことがあるため、自動運転です。これで室温は21℃から25℃くらいになっています。基本の温度をエアコンで保っているため、ケージはプラ舟にワイヤーネットで蓋をしただけの開放型になっています(湿度を保つため、夜間は防火布をかぶせてあります)。

そのうえで、全体保温の補助かつ、エアコンの自動運転の調節がいまいちなときの逃げ場所として、ケージの片側に暖突を取り付けてあります。サーモスタットに接続し、暖突直下の温度が昼間は28℃、夜間は25℃になるように調節しています。暖突の直下の温度を測っているのは、全体保温をエアコンに任せているため、逃げ場所として直下が適切な温度になっていれば十分という判断からです。暖突だけに全体保温を任せるのであれば、暖突から離れた場所にセンサーを設置して全体が冷え過ぎないように暖めたほうがよいでしょう。

局所保温

暖突の反対側には、日中の局所保温、ホットスポットとしてソラリウムとレフ電球をつけています。ランプからの赤外線をセンサーが直に受けるため直下の気温は測定が難しいですが、放射温度計で直下のスレートプレートの温度を測ると33〜35℃程度になっています。

さらに、ケージ中央部の底面にはピタリ適温プラス4号を敷いており、暖突も調子が悪いというときの夜間の逃げ場にしています。

 

我が家の例はもちろん一例に過ぎません。YouTubeなどでも飼育環境を公開されている方はたくさんいらっしゃいますから、それらも参考にしてみると、より保温について腑に落ちるのではないかと思います。

終わりに

リクガメの温度管理に使われる器具にはさまざまなものがあり、続々と新商品も登場してきます。選択肢が多過ぎて、逆に何をどう使ったらよいものやらわからなくなってしまうこともあるでしょう。そういうときは、原理に立ち返るのが近道てはないかと考え、今回の記事の作成しました。

みなさまならお役に立てれば幸いです。

 

【参考文献】

  1. Sharon Redrobe. Basic Approach to the Reptile Patient: VIN. https://www.vin.com/apputil/content/defaultadv1.aspx?pId=11181&catId=30086&id=3852208
  2. Stephen J. Divers. Management and Husbandry of Reptiles: MSD Veterinary manual. https://www.msdvetmanual.com/exotic-and-laboratory-animals/reptiles/management-and-husbandry-of-reptiles
  3. 熱の伝わり方:岩崎電気株式会社.https://www.iwasaki.co.jp/optics/chishiki/ir/11.html
  4. 冨水明.ちょっと遅いが寒さ対策:ビバリウムガイド87号.エムピージェー.2019.
  5. 暖突シリーズ:ピタリ適温プラス.https://pitateki.com/products/dantotsu.html
  6. ケージの中の空気を爬虫類のために優しく暖める!「ヒーティングトップ」: GEX ExoTerra Time.https://www.gex-fp.co.jp/exoterra/blog/products/heatingtop/
  7. 清水賢.遠赤外線の基礎・計測(1).繊維製品消費科学.29(5):170-176,1988.
  8. 【暖突VSヒーティングトップ】徹底比較検証📚実際どちらが温まるのか 近赤外線の時代かI?:ZOO TIME.https://zootime.info/2022/11/23/【暖突vsヒーティングトップ】徹底比較検証📚実/
  9.  電球が光る仕組みと口金の種類:モノタロウ.https://www.monotaro.com/note/productinfo/lightbulb/#:~:text=電球が発光する仕組みは、フィラメントに電流を,に使われています%E3%80%82
  10. ハロゲンランプの特徴・種類・アプリケーションを解説:ケイエルブイ株式会社.https://www.klv.co.jp/corner/what-is-halogen-lamp.html
  11. 冨水明.はじめの一歩:ビバリウムガイド105号.エムピージェー.2024.